2014年12月28日

我は救済をもたらす者なり

早い物で、2014年もあとわずか。
部屋の整理もあらかた片がつき、STEAMセールとにらめっこしながら年末を過ごしている今日この頃です。
なんだかんだで忙しい一年だったため、大した創作も出来ず消化不良気味なんですが、仕事がある事のトレードオフとはいえ、中々辛い物です。

そんな訳であんまり書くことが無かったりするんですが、部屋の整理中に出てきた懐かしい物を紹介して、今年を締めくくろうと思います。

それは映画「天使」。
パトリック・ボカノウスキーというあまり聞き慣れない監督による作品ですが、実際あまり作品を残してない、というかDVDなどでソース化されてないので仕方ない部分があります。
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制作されたのは1982年の事で、今から30年も前の映画になります。
この映画は(DVDの説明表記を信じるならば)、当時のアートシーンに何かしら影響を与えたと言われており、実験映画やカルトムービーと呼ばれる映画に属する物ですが、カンヌなどの映画祭で話題になるなど、実際当時の人達には色々衝撃的な作品だったのだろうという事は想像できます。

この映画にはセリフやストーリーらしいストーリーはなく、ひたすら映像と音楽が流れるだけのシンプルな作品です。
しかしその映像は単純な動画ではなく、細かく切り分けられたループ映像、ストップモーション、スチール写真など様々な技法で撮られており、時に穏やかに、時にめまぐるしく次々と色んなイメージがなだれ込んできます。
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いきなり冒頭から、上から吊された人形を男がひたすら剣で斬りつけ続けるという、一見するとかなり不気味な映像がひたすら流されるので、殆どの人はこの時点で呆然としてしまうでしょう(笑)。
しかも、その一連の動作が細かく分けられて、何度も何度もくりかえされてループするので、「一体私は何を見せられているのだろう?」と疑問がよぎってしまいます。



その後もメイドがミルクを運んできて、それが机からこぼれ落ちてしまうという何気ない動作がこれまた何度も何度もくり返されたりと、不可思議な映像が続きます。
音楽も幽玄で悲しい楽曲なので、かなり映像から来るイメージはダークで不気味な物を感じます。


しかし一方で、かなりユーモラスでシュールな映像も含まれており、これが他の作品と違う所なのかな、という感じはしました。
大笑いしながらお風呂に入る男や、なにやら書庫でせわしなく仕事をする男達は、どことなくコミカルに描かれています。
まあ笑いながら風呂に入ってる男は、見方によってはかなり不気味ですが(笑)。

どいつもこいつも同じマスクを被っていて一見気持ち悪いんだけど、動きがコミカルなのでちょっと笑ってしまいます。
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こうした、ある意味全く異なる映像の断片が、無造作に並べられている「ように見える」本作品、でも何かしら一貫したテーマが潜んでいるように思えます。
こういった映像の合間合間に挟まれてくるのが、階段のイメージ。
階段を上っていく、という断片が頻繁に入ってくるので、この映画のテーマの1つと言うのは私でもだいたい理解できました。

でもそれ以上の事は分からなく、結局何が言いたいのかは難解であり、非常に抽象的な作品と言えるでしょう。
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ただ、DVD内に収録されているプロダクションノートに軽い解説があり、それでやっと意味が理解できました。
天使の映画の中の世界は、狂ってしまって同じ事を延々とくり返す無限ループ状態であり、そういった世界が、「未知のもの」と遭遇することによって何かが起ころうとしている様を描いており、それで初めてタイトルの天使という意味が分かったような気がしました。

ラスト付近で象徴的に階段の先から強烈に光が差し込んでくる映像が流れてきますが、これは果たして、無限ループに囚われた世界の人々にとって救済を意味するのか、はたまた終焉を意味するのか。そこら辺を想像するのは楽しいですね。

無限ループからの解放なんて言うとSF何かで取り上げられそうなテーマだし、個人的には某ロボットアニメを想像してしまうけども(笑)、そういった概要をふまえて改めて見てみると、この映画は中々良く考えられた映画だという事が分かって、ちょっと面白かったです。


既に70年代辺りから、こうしたカルトムービーや実験映画は国内外問わず盛んであり、そういったムーブメントからすると本作品はそんなに刺激的な内容なのでは無いのかもしれません。
他の映画や映像作品で、もっと背徳的で暴力的なイメージを強調した、直球的表現のアート作品はこれより前に沢山あるわけですし、そういう物と比べると、この「天使」は、結構上品な映画の部類に入ると思います。

でもその地味さ加減が個人的にはお気に入りなんですけどね。ちょっと不気味だけど、コミカルでもあるし、基本的に淡々と映像を紡いでいる映画なので、脳みそを空っぽにして見ることが出来ます。
今で言うとミュージッククリップのリズム感に似てると思うし、技巧的な事を様々試している事からして、以前ここでも紹介した、松本俊夫氏の作品群に相通ずる所があるような気がします。

同時収録されている短編「海辺にて」や、動画サイトで見つけた他の作品などを見ても、ストーリーどうこうと言うよりは、映像から来る直感的な美しさを追求しているように思える、というのも共通している感じですし。
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残念ながらもはやDVDは絶版であり、レンタルでも見かけないので見る機会が限られてしまっている映画です。アマゾンで売られてますけどちょっと高いですね。中古で定価に近い価格か・・・。
一応動画サイトなどで抜粋や一部を見ることは出来ますが。



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2011年07月24日

飛び出せ建築

懐かしい本を取り出した事がキッカケで、工作を久々にやりました。まあやった理由は単純で、コレ一度も紹介した事無いし、この際良い機会だからガッツリ記事書くためにちょっくら作るかーって事だったんですが。
その工作とは、「折り紙建築」の事。80年代にちょっとしたブームになり、見たことがある人も結構いるのではないでしょうか。一時はCMで使われた事もありますし、その美しいビジュアルに私も惚れ込んだクチです。
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分かりやすく言えば飛び出す絵本のたぐいですが、あえて色や絵を付けず、影のコントラストのみで立体物の美しさを際だたせた、まさに紙のアートでした。
当時私はたまたま偶然洋書のコーナーでこの折り紙建築の本を見つけ、載っている図面をもとにせっせこ工作に勤しんでいた時期もありました。洋書に載っていたので、当初私はこの折り紙建築の考案者は外国人だと思ってましたが、実際には茶谷正洋という日本人で、東京工業大学教授であり、建築家という肩書きも持つ人物でした。
後に日本語版の本も見つけ、結構買ったりしてましたね。
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折り紙建築の魅力はなんと言っても、飛び出す幾何学的な模様が醸し出す美しい白と黒のコントラスト、一枚の紙で本当にこんな立体物が出来てしまうのかという意外性につきます。そして、図案を元に自分でも作ることが出来るのもまた魅力。

ただし、その製作過程は割と大変な物で、それなりに工作に慣れてないと、結構ハードルが高いかと思います。特にハマっていた当時はスキャナーも持ってないし、コンビニにコピー機なんて置いてなかったから、図面をコピーするのも一苦労でしたね。なのでトレーシングペーパーを使って図面をなぞった後、紙にこすり写すという、何とも手間のかかる方法を使ってたので、沢山作りたくてもそれが億劫でなかなか作る気が起きませんでした。今は簡単にコピーが出来るようになり、良い時代になったものです。
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折り紙建築を作る場合、ケント紙や厚手の画用紙に図面をコピーしたら、後はそれを元にひたすらカッターで切り目を入れていきます。折り目にも軽くカッターでなぞっておくとベター。ていうかそうしておかないと、全く上手いように折れ曲がってくれませんので。

切ること自体は単純作業なので楽ちんですが、問題はここから。実際に折り目を入れていって面を浮き上がらせなくてはいけません。これが複雑な形状なほど相当難しい。一気にえいや、とは無理なので、チマチマと少しずつ折り目をいれてどんどん角度を付けていきます。時に大胆にやらないとラチがあきませんが、無理をすると細い部分が切れたりするので多少は慎重に。変な所で曲がっても取り敢えずは気にせず、最終的に完全に折りたたむ所までいった所で微調整すればいいや、くらいの感覚でもいいかと思います。
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で、見事折り目を付けることが出来れば完成。ポストカード風にしたければ、裏面にさらに紙を貼り合わせます。
こういう完成図を見ると、なぜ「建築」なのか、ってのが分かるような気がしますね。
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折り紙建築の醍醐味は飛び出す絵本と同じ、「飛び出してくる」という点も大きいので、動画もアップしてみました。殆どは今回紹介するために作った物ですが、何年も前に作った古い物も含まれてます。ただ、本当はもっと沢山あったんですけど、ほとんどプレゼントや贈り物として上げてしまったので、全然手元に残ってなかったんですよね。


上の動画の最後に出てくる180度で開くタイプの折り紙建築の方が多分有名なので、見たことあるって人、多いんじゃないでしょうか。実際インパクト強いですよね。私もコレを作りたくて本を買ったクチでしたし。

しかし、この180度タイプは90度タイプより製作過程が複雑で難しいので、作るには結構な覚悟が必要です。もっとも、完成した時の喜びは何物にも代えられない物がありますけど。
180度タイプの場合、紙一枚から、という訳にはいかずパーツを結構必要とするので、結構な数を切り取らなければなりません。しかも今回のように丸形だと結構大変ですしね。

で、切り取ったパーツを組み上げて行くんですが、勿論接着せずに窪みにかみ合わせていく事で作っていきます。これが大変。やってると他が外れたり、無理に押し込むとパーツ自体がひしゃげて駄目になってしまったり。凹みの切れ目の幅が足りないとパーツが曲がることがあるので、気持ち多めに窪みを入れておくと良いです。今回私は画用紙を使用しましたが、ちょっと強度に問題アリだったかも。円滑に組み立て作業が進むように、紙はある程度固めな物を使用することをお薦めします。
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で、オブジェクトが無事組み上がっても、問題はここから。180度開くのに合わせて動くようにするために、紙とオブジェクトを糸で結んで固定しなければなりません。
オブジェクトの下部に糸をくくりつけ、その糸を台座の紙へ針を使って糸を通し、裏で止めて固定します。2箇所で止めれば、開いたときに糸で引っぱられてオブジェクトが立体になるって寸法です。穴の位置を間違うと、開き具合が中途半端になるので慎重に位置決めをしなければなりません。まあ多少のズレは糸の長さで調整できますけど。

こうして完成すると、なんとも見た目にも美しい折り紙建築の出来上がり。作るのは敷居は高いですが、やはりこれこそ折り紙建築、という感じですね。素晴らしい。
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しかし作るのは大変と言っても、この図案を考案するのはもっと大変なのではと察します。ともかくこの180度のやつなんてのは、適当に感覚で作っていって出来る物じゃないですし、入念な計算を行って初めて出来る物みたいですから、到底私には無理かと・・・。こういった物を次々考案していった茶谷氏には全く持って感服します。
しかしこの茶谷氏、08年に他界してしまっており、もう新作が見れないかと思うと残念です。今回の事で初めて知りました。

しかし、この折り紙建築に魅了された人々が国内外問わず、次々オリジナルの折り紙建築を構築してるようで、世に出てからだいぶ月日が経ったものの、その息吹は師匠亡き後も衰えず、といった所でしょうか。頼もしい限りです。


ブームになったのがもう何十年も前の事なので、若い人は存在すら知らない、なんてな人もいるかも知れませんけど、折り紙建築の本自体は今でも買うことが出来ますので、興味を持った方は一度トライしてみてはいかがでしょうか。ネット上で一部型紙をダウンロードすることも出来ます。ここのリンク集から色々テンプレートを入手出来るみたいですね。
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作って自分で悦に入るのも良いですけど、誰かの贈り物カードとしてあげると、きっと驚かれると思いますよ。





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2011年02月27日

とっくの昔にそれは破壊されている

以前紹介したクリス・マルケル経由で、松本俊夫実験映像集を見ました。これはDVD3枚組という膨大なコレクションだったのですが、非常に興味深く見させていただきました。と、いう訳で今回はこの作品を紹介しようと思います。
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© UPLINK/Dex Entertainment

しかし、松本俊夫と聞いて何人の人がピンと来るのでしょうか。日本を代表するカルトな映像作家・映画監督として世界でも有名な著名人であるにもかかわらず、例えば寺山修司や鈴木清順などに比べたら、極めて知名度は低いような気もします。実際私もそれまで良く知らなかった訳ですから。熱心な映画ファンであれば、「薔薇の葬列」や「ドグラ・マグラ」の監督という事で、それなりに知られているかも知れません。しかしどの作品も評価は高いにもかかわらず劇映画の数は決して多くはないので、それも知名度に影響しているのでしょうか。


この実験映像集は初期の60年代から80年代末期までに彼が制作した短編作品をまとめたものですが、依頼されて作った物、個人的に制作された物など様々あります。元々新鋭の映像作家として名を馳せていただけあって、その手法は極めてアーティステックであり、初期のドキュメンタリー映画の時点で既にその見せ方、技法に至るまでかなり独特なスタイルを打ち出していました。

その独自性がもっとも顕著に出始めるのは60年代末期からで、丁度それは日本でのカルチャー・ムーブメントが極めてトンがって来た頃と重なる訳です。学生運動やヒッピーイズムが台頭し始め、社会全体に平常ならざる勢いみたいな物が押し寄せていた時期です。この一種独特な雰囲気をいち早く、あるいは予感させるような形で彼は自己の作品にそのカルチャーを反映させていきます。

それが例えば「つぶれかかった右眼のために」などの作品なのですが、これは当時のとんがった勢いを極めて象徴させるような内容に仕上がっており、2つに分かれたマルチスクリーンにさらに画像が折り重なり、そしてそこには当時のニュース映像やCM、あるいはヒッピーの若者達や死を連想させるアングラ映像が半ば無作為に並んで映し出されていきます。
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内容はともかく、まだマルチスクリーンという物がさほど一般的になっていなかった時期に「情報過多」をイメージさせる手法としていち早く取り入れているのは流石といった所なのかも知れません。


その後もヒッピーや海外のドラッグ文化に影響を受けて非常にサイケデリックな映像作品を作っていく松本氏ですが、丁度この頃に映画「薔薇の葬列」を制作しています。当然ながらこの映画も、当時のアングラ・カルチャーを極めて意図的に引用した作品ですので、その内容は総じて奇怪にして混沌とした内容だと聞きます。私は全篇まとめて見た事はまだ無いのですが、少なくとも当時のアングラ文化と60、70年代にあったトンガリ精神みたいな物を大きく反映している事は間違いないでしょう。通常の枠組や文法を否定する事で、あえて間違ったやり方を試し全く新しい何かを生み出そうと皆が血気盛んになっていた頃ですから。

この、とにかく何か新しいもの、別の可能性を模索するという精神はずっと松本氏の中で生き続けることになります。
例えばこのアートマンという作品では、画面がめまぐるしく変化し、映像は極めてドラッギーで、松本氏言うところの「呪術的」であり、見る物はかなり不穏な気持ちにさせられますね。今だったらてんかんを及ぼしそうな映像で確実にアウトっぽいです。

しかしこの作品は500にも及ぶカメラのポイントを決め、そこから数種類の映像をおこして、それらをアニメーション技法を使って連ねることでこの不可思議な作品が出来上がっています。

つまりこの人の目的はそもそも自分の妄想やイメージを具現化するという事よりも、映像の持つ可能性や、新たな技法を見いだす為に続けていた節があります。それは言わば、こうしたカルトムービーが極めて文学的感性から成り立っているのに対し、松本氏の作品はどちらかというと数学的な感性が見え隠れしていると思うのです。パッと見のドキツいビジュアルイメージに圧倒されてそれだけに終始してしまいがちですが、そこには緻密に計算された意図と技法が隠されているわけですね。


それは80年代に入ると非常に分かりやすくなって来ます。60、70年代にあったヒッピー的ドラッグムービー色は薄まり、映像の方向は極めて数学的傾向に傾いていきます。
個人的にはやはりこの辺の年代の作品が好みで、やってる事は非常にシンプルかつミニマルです。例えばコネクションという作品では青空の映像を何分割にも分けて時間軸をずらしていくことで、不思議なグラデーションを生み出しています。今ならCGで簡単に編集出来てしまいそうな作品ですが、これを全てアナログな手法でやって見せた技術力も凄い物だと思いますね。
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ちなみにこれは「シフト(断層)」という作品ですが、さらにシンプルな構造で出来ており、建物を捉えた映像が6分割されて微妙にズレで表示されていくだけというものです。しかしそれだけで何とも不可思議な映像が出来上がり、元の建物の構造があやふやに思えるほど形状を捉えることが難しくなってしまう作品です。


この一連の作品群を見て真っ先に連想したのは、カナダのアニメ作家ノーマン・マクラレンです。松本氏の作品はマクラレンが追求していたコンセプトや概念と結構相通じる所があるように思えました。マクラレンがアニメの持つ「動く」という極めて単純かつ根源的な事を追求していたのと同じように、松本氏もまた映像から受ける直感的な美や可能性を見出そうとしていたのかもしれません。


ただ正直な所、見たのが遅すぎたというきらいもあり、今となってはCGを駆使し更なる複雑怪奇な作品を作っているアーティストは山程いるので、それに比べるとどうしてもコンセプトがシンプル過ぎる感は受けてしまいました。しかしこれらの作品を60、70年代に既にやり尽くしていたと言う事実はやはり特筆すべきポイントで、確実に映像技術の先駆者の一人と言って間違いないと思います。

で、こういう先駆者の作品って見るたびに衝撃を受けるんですけど、同時に見なかった方が幸せではなかったか、なんて思ってもしまいます。
いつの時代の若者達も何か新しい物、斬新な物、今までにない物を作ろうと躍起になり、周りが常識だと思いこんでいる事に対してのカウンターパンチとして作品を作っていくというのは常に繰り返されてきました。
かの松本氏もその筆頭だった訳ですし、アングラ文化を牽引してきた役目も大きかったはずです。そして私もまた、何か新しい物は生み出せないかと模索しているような人間ですから同じ穴のむじなです。しかしそのプロセスは非常に共感を受ける物があると同時に、「所詮イキがってるだけだ」という空しさみたいな物も少なからず感じてしまうのでした。

これはもう何年も前から思っている事で、アンチはアンチになり得ず、カウンターパンチはカウンターパンチにはなり得ない。何故ならもう60年代末期の時点で既に散々やり尽くされ、流石にそれを生では見たことは無いにせよ、そのエコーのような物は何度も感じたこと位はある身、つまりそれが招く結果もプロセスも既に知ってしまっている。だからそれが二番煎じだと分かっていて、あえて反骨精神を出す必要がはたしてあるのだろうか?

そうは言っても自分の趣向性は偏屈で変わっていることに違いはないからどうしたって方向はマニアックになります。でも、それで何か他人と違うことをして、既存の物を否定して、あえて批判されるような事をして、何か新しい物を生み出せるかと思ったら大間違い。そんなもんはただのエゴだ。
もし「見てる観客がみんな眉をひそめて嗚咽するような物を作りたいんですよ」なんて事を言うような奴がいたら、「フッ・・・若いね」と冷笑することしか私には出来そうにありません。

というか、これもまた私なりのひねくれたアンチ的発想なのかも。90年代に流行ったオルタネイティブに一時はハマッたものの結局は嫌気がさし、アングラ、アンチという物が私の中でただのガラクタに成り下がった時点で振り出しに戻り、迷走の果てにその行き着く先で私はもっと別のやり方で何か出来ないかを考えている・・・。その結果のひとつがアッテンボローの怪人だったりする訳だけど、これ、はたして何か見いだせるような物を生み出せた事になるのだろうか・・・。もはや自分でも全く分からなくなってきているような。


松本氏の作品群を見終わったとき、そういう事をふと思い、また自問自答の堂々巡りに陥る今日この頃。若い人達にとって、これらの作品は素晴らしき手本と刺激と成りうるか、はたまた絶望と壁を作り障壁と化してしまうのか、それは見た本人でないと結果は分かりません。
まあ私みたいにこんな偏屈な考え方で自らをがんじがらめにしてしまうような奴はそういないでしょうから、大概の方にはおおいに松本氏のエキセントリックな映像世界を楽しむことをオススメします。

何より素晴らしいのは、この映像集には作者本人による解説コメンタリが付いていることで、各作品の作るに至った経緯、その作業プロセス、そして何を意図していたかに至るまで非常に詳しく解説してくれている点で、たたでさえ見てる人間がポッカーンとなるような内容が多い分、各シーンごとで何故こういう演出をしたのか、という部分までネタバレしてくれている事は非常に見る上で道標となり有り難かったです。その事により、各作品がただの思いつきではなく極めて入念な計算の元に作られていたかが分かり、この手のカルト作品を見る上での入門として充分機能するかと思います。まずはオリジナルを素で見て色々感じ取った後、改めてコメンタリで見直すと目がウロコ状態になること請け合いです。
まあこういう丁寧な解説により真意をくみ取ってしまったからこそ、自分が打ちひしがれてるような所はありますが(笑)。
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ただいかんせん松本氏の作品は映画も含めてほとんど絶版化しているので、今では見る手段が極めて限られています。ただしサン・ソレイユの時と同じく、この映像集もDMMのラインナップにありますので今ならレンタルで見ることは可能です。私もこれで見たクチです。うーむDMM侮りがたし。



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2010年08月08日

いやいや絶対コレ渦巻きだって!

九州に帰省してた話の続きになりますけど、例のヤフードーム周辺をぶらついてた時に、トリックアートミュージアムなる物がありました。だまし絵などを中心に展示しているミュージアムって事ですね。私はそういうが大好きなので、どんなもんなのかと興味津々で入場してみました。
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場内には、絵画から立体物まで、だまし絵好きには有名なペンローズ的な図形や、エッシャー的な絵画などは勿論、来場者がだまし絵と一緒になって楽しむタイプの物など、例えば以下の動画みたいに真正面から見るとマトモだが視点をずらすと・・・みたいなそんな不思議な物が結構展示してありました。


ただ、全体的には前述したような来場者がだまし絵と一体化するタイプの物が多かったです。要するに、ピサの斜塔を支えに行った、なんていうよくやる記念写真を連想していただくと分かりやすいと思います。つまりそういうタイプのだまし絵が大半。実はこのミュージアムは写真撮影がOKなのですが、それもそのはず、来場者がだまし絵と一緒になって記念撮影することが大前提になっているからです。以下の写真のはみ出た部分に手を添えてパチリ、とかそんなノリなんですよね。
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一応家族で入場したとはいえ、さすがにそこまでノリノリでやるようなタイプの家系ではないんで(笑)、ほとんどその手の写真は納めなかったのですが、その事からこのミュージアムを楽しむためには、気の知れた友人・知人・カップル同士、あるいは子供連れの家族で来場するのが望ましいですね。間違っても一人で入場はあり得ませんのでご注意を。

まあそんな訳でちょっと消化不良気味でそそくさ退散。でも売店コーナーでだまし絵トランプが売ってたので、ここぞとばかりに購入。
だまし絵トランプは幾つか持ってましたが、丁度持ってない物だったので。他にもエッシャーのトランプとかもあったので買いましたが、これはカードの裏地全てに同じエッシャーの絵が印刷されてるだけのいたって普通のトランプでした。うーん、表に何種類も違う絵があるのかと思ってたけど違ったか、残念。
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まあそれはともかく、このだまし絵トランプはなかなか楽しいですよ。結構色々種類は出てます。ミュージアムの売店にはあまり数は無かったですが、これらはニチューが輸入しているので比較的入手しやすいです。

せっかくなのでこの中から、イチオシのだまし絵を紹介しときますか。
まずは基本的な、有名なだまし絵から。斜めの線がありますが、はたしてCの線はA、Bのどちらに繋がっているでしょうか?
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一見するとAにつながってるようにしか見えませんね。
しかし実際にはBと繋がっています。これは定規などで合わせてみるとハッキリ分かると思います。



続いてこのピラミッド図形。中に5色の玉が描かれています。さて、三角形のちょうど中心にある玉は何色の玉でしょうか?
(三角形の高さを見た際の、その中心はどこかという事です)
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中心、といったらどう見ても黄色の玉が真ん中にあるように見えますよね。
ところが実際にはその上の青い玉が中心にあるんです。
えー、とても信じられない? じゃあ、線を引いて調べたバージョンを置いておきますんでこちらで確認のほどを。
これはあれですかね、5つ玉が並んでいるので無意識にその中心にある黄色が真ん中に見えてしまう錯覚なんでしょうか。


そしてさらにコレ。なんかグルグルと渦巻き模様が見えますね。
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え、渦巻き模様・・? ちょっと待って。これ渦なんか巻いてないですよ。
実は幾つも円が描いてあるだけで、螺旋でも何でもないんです。
嘘だと思うなら、鉛筆とかで実際に線をなぞってみると良いです。チカチカしてやりにくいとは思いますが、とにかく永遠に中心になんか向かいませんから。
昔これを見た知人は「バカ言え!そんな訳ないだろ!」とマジで信じられなくて何度も首をかしげながら確認してました。まあその気持ちも分からないではないですね。私も何度見ても渦巻きにしか見えません。
背景等の模様が邪魔して正確な形を把握出来ないんでしょうね。しかし見れば見るほど目がチカチカします(笑)。


今度はこの不思議な図形模様。緑の部分に着目してみて下さい。
上部と下部で若干緑の色の濃さが違うように見えますよね。
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えーっと、実はコレもそう見えるだけであって、みんな同じ色の濃さなんですよ。
いやいやいや、どう考えても上の方の緑色が濃いだろ! と思ってしまいますが、周りのオレンジや黒の線に惑わされてるんです。
なので、これを省いたバージョン(GIFアニメ)を置いてみたので確認してみて下さい。
全部白の線で塗りつぶされると、逆にみんな一緒の濃さに見えます。いやはや、人間の目は周りの状況に影響されやすいのですな。


そして最後はこのダイヤモンド型の模様図形。全体をおぼろげに見てみて下さい。
一番上の列のダイヤモンドだけ少し色が濃いめだと思いませんか?
見たところ、グラデーションで黒くなってるポイントがより濃く見えてるような気がします。
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まあお気づきかとは思いますが、当然このダイヤモンドは皆一緒で、上だけ色が濃いとかそう言うことはないです。
不思議なことに、間のダイヤモンドを消して、一番下と上の列だけ残してみても、やっぱり上が若干濃く見えちゃうんです。
これを確認するには、一番下か上のダイヤモンドをコピーして、別の列に配置してみるしかありません。すると、全く同じだと言うことが分かります。というか配置によって色の濃さが変化して見えてしまう・・・。

そこで、レイヤ階層にしたフォトショのPSDファイルにしてみたので、見れる方はこれで確認してみて下さい。カットしたダイヤモンド図形の位置をずらして見れば一発で分かります。


まあだまし絵好きの人からすればこれらは皆有名ところかもしれないけど、何度見てもそうだとは思えないって所はやっぱり不思議。というか、如何に我々の目がいい加減か分かりますね。そしてそれは、コンピューターが算出した正しい結果なハズなのに、どうしても正しいと思えない、結局最後は見た目の勘に頼らざるを得ないなんてことがしばしばありますけど、要は目や耳がそんな風にいい加減だからなんですよね。




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2009年10月25日

主役はピクニックの男

イームズチェアで有名なチャールズ・イームズ&レイ・イームズ夫妻。
彼らの映像作品集がDVDで出ていたので購入。
既に一枚組の通常版は出ていたんですが、その後4枚組のスペシャルBOX版が出たというのでこちらを購入。まあだいぶ前に出てたんですけどね。
なんで通常版にしなかったかというと、私の好きな国立水族館が収録されてなかったから。これがBOX版には入ってたからしょうがなく(笑)、こっちを選択。まあ未見の物もたくさん入ってたからイイとしよう。

イームズは何といってもあのイスが有名ですが、私は彼等の映像作品を見て知ったクチなので、むしろ家具デザイナーという肩書きの方がピンと来なかったりして。かつてパイオニアから出ていた、著名な映像クリエイター達の作品を集めた「映像の先駆者シリーズ」のLDの中にイームズ夫妻があったので、購入して良く見ていました。
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そもそも私がイームズ作品を知ったのは小学生とかそんなくらい。どっかのTV番組でCG特集とかをやってて、そのくくりでイームズの「パワーズ・オブ・テン」が紹介されてたのを見たのが最初でした。
勿論まだその頃はイームズなんて意識はしてなくて、後にこれがイームズだと知る事になるんですが、インパクトありましたねえパワーズオブテンは。実際には写真を巧みに合成していく事によって作られた作品なのでCGって訳ではないと思うんですが、当時CGとして紹介されるのも分からん訳ではないですな。

パワーズ・オブ・テンは10分程度の短い短編作品で、野原で昼寝している男を映しているカメラが次第に遠のいていき、しまいには地球を飛び出し、銀河の果てまで移動していってしまうという科学的な映像作品。
わずか10メートルの区画の場所から、100メートル、1000メートルと倍々の速度で離れていくことによって、徐々に速度が増していって、最終的には10の24乗倍という彼方まで到達してしまうという、数学の神秘を見せてくれます。
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今となってはこのタイプの作品は全部CGで作っちゃえばたやすそうですが、これを殆どアナログ的手法で作っちゃってる所が凄い。作られたのは70年代後半で、勿論CGなんてまだごく一部で使われてた程度の時期ですからね。今となっては映像同士の繋ぎ目が少々荒く見えるけど、今見ても全く見劣りせず鑑賞出切るのが素晴らしい。


イームズ夫妻はそもそもデザイナーという事もあって、個人的な映像作品というより、企業や団体から依頼された事によって制作した物が大半を占めます。そんな訳で殆どはプレゼン用の映像だったりするんですが、そのどれもがよく出来ています。そもそもおもちゃを利用して作られた個人的な映像作品ですら、おもちゃのためのプレゼン映像に見えて来るくらいです。

有名なのが、ポラロイドが初めて世に出したインスタントカメラ「SX-70」のためのプロモーション映像。当時の事からしてみれば、正直このポラロイドカメラは画期的だったので黙ってても売れるような物だったと思うんですが、このプロモ映像は見事としかいいようがなく、見た人は無性にこのカメラが欲しくなる事請け合いです。
実際私も欲しくなっちゃたんですよ。まあ今となっては生産は中止されてますし、いつ何時に使うんだって冷静に考えてしまうとウーンって感じではあるけど、今でも凄く人気があるんですよね、このカメラ。



で、前述した「国立水族館」。国の依頼を受けて制作したこのプレゼン映像は、ワシントンに建設予定の水族館をつぶさに紹介した短編フィルムです。
これがまた見事で、イームズは自分が構想したアイデアの水族館を認めてもらうため、映像を如何なく利用して事細かに説明しており、一度はこの水族館に足を運んで見たくなるような出来になっているのです。イームズは水族館までのアクセスルートから各館内の構造までを順序よく丁寧に説明し、そこで何を学ぶ事が出来るのかまで教えてくれます。
文章や言葉のみで伝えるより、映像を交えた方がはるかに分かり易いというのは誰しも知っている事ではあるんですが、魅力的なプレゼン映像を作るのにはセンスがいります。企業のプレゼン映像を見て、その会社がウリに出している商品を果たして欲しくなるのか?という分かり切ったと言えば分かり切ったCM戦略を、イームズは巧みに自分のセンスでカバーし、期待に応えていたようです。
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しかし皮肉な事に、この水族館は結局実現しなかったんですよね。つまり実際に見たくても存在しないんです。この映像を見て、現地で必死に捜してしまう人まで現れた、なんていう逸話まで残ってます。


ちなみに通常版ではLD版と同じく江守徹による吹き替えナレーションが入ってるんですが、BOX版では字幕のみです。(通常版と同じ内容のディスクは吹き替え版も収録されてましたけど)
そのため、LDでは吹き替え版だった国立水族館が字幕のみなのが残念。この手のプレゼン映像は音と映像でしっかり把握して見ないと駄目だと思うんですがね。字幕だと全部目で情報が入って来ちゃうから目に対する負担がことのほか大きい。だからそこはしっかり対応して欲しかったかなあ。


まあなんにせよ、初めて見る映像もたくさんあって楽しめました。「IBM館」では、来客する群集を早回しの映像で見せており、コヤニスファンとしてはおおっと反応してしまったり。にしてもこのIBM館もイームズが手掛けているんですがマルチスクリーンのパビリオンは凄そうでしたな。

イームズのプレゼン作品は色々タメになる事も多いので、BOX版でなくとも通常版くらいは是非見ていただきたい。パワーズオブテンはこれに入ってますし。でもSX-70や国立水族館の作品も捨てがたい。これらはBOX版でないと見れないのが残念ですが。

 
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