2015年12月27日

君の作品を理解出来るのは僕だけだ

The Beginner's Guide」というゲームを購入しました。
このゲーム、以前ブログでも紹介したことのある「Stanley Prable」の作者による次回作、という事で、結構気になっていた作品です。
幸いなことに結構早くに日本語MODが登場したため、Stanley Prable同様に言語依存の高い本ゲームを楽しむ事が出来るようになりました。ありがたいことです。
ks_BeginnersGuide1.jpg

前作Stanley Prableは、意図したルートを全然通ろうとしないプレイヤーをナレーター(ゲーム開発者)が呆れて先導しようとする、という非常にメタチックかつ奇妙なアイデアが光るゲームになっていましたが、今回も結構それに近い、ゲームデザイナー視点の奇妙なゲームになっています。

制作期間が結構短かったらしく、実際内容としては小振りなショート作品と言って良いでしょう。早い人なら一時間程度で終わる内容ですし、いわゆる雰囲気ゲー、ウォーキングシミュレーター系のゲームですので、そんなにゲーム性が濃い訳でもなく、Dear Estherとかに近い物だと思って構わないと思います。


さて、ではThe Beginner's Guideとはどんなゲームなのか? というと非常に説明に困ります。
作者の友人が作ったゲーム作品群を紹介する、という体で始まるため、いわばこのゲームは、とあるアーティストの作った作品集を、コメンタリ解説付きでプレイしていく、という趣向のゲーム、と言ったところでしょうか。

ここで紹介される作品というのが結構奇っ怪な物が多いため、一見すると、何これ?みたいな印象を受けるのですけど、先に包むにつれ、彼の作品にある兆候が見え始めて・・・・というストーリーになっており、私個人は結構引き込まれてしまいました。
ks_BeginnersGuide2.jpg

stanley prableに比べると、分岐やお遊び要素もほとんど無いためゲーム性が低く、まだ前作の方が面白かった、という声も散見されますが、本ゲームで語られている内容に関しては、前作よりずっと心に刺さる物があったように個人的には思います。

その内容に関して詳しく語ってしまうとネタバレに繋がってしまうため、言及できないのが残念ですが、まあいってみればセミ・ドキュメンタリーのような手法で作られており、その何か曖昧な感じが非常に不可思議な体験をもたらすものになっています。

元々ゲーム制作者側視点で語られているような内容であるため、個人的にはゲーム開発に携わっている人間には是非プレイして欲しいと思うゲームです。
もちろん、そうでない人たちにもお勧めです。実際の所、ここで語られている内容はゲームに限らず、映画でも漫画や絵画でも音楽でも、エンターテインメント全てに共通する普遍的なことを言っていると思うので、何かしら心に響く物があるのではないでしょうか。
ks_BeginnersGuide4.jpg

The Beginner's Guideは現在Steamにて購入可能です。
年末セール中でワンコイン価格並になっているので、買うなら今がチャンスですよ。

なお、日本語MODを入れている場合、希にクラッシュすることがあるようです。私も特定のチャプターで起こりました。
クラッシュによりゲームが進められなくなった場合、ビデオオプションで画面のアスペクト比を変更すると解決するようです。
例えば16:10を16:9に変更するなど。


で、本ゲームは物語が中心のゲームなので、感想を書こうとするとどうしてもネタバレに繋がってしまうので、割と短くまとまってしまいましたね・・。
というわけで、これ以降は考察等、ネタバレ全快で行きますので未プレイの方はご注意ください。




本ゲームは、Codaなる人物の手による幾つかのミニゲームをプレイしていく、という趣向になっていますが、当然ながら、皆「このCodaという人物は実在するのだろうか?」というのは気になる所でしょう。

作者本人が実際過去に作った実験作をそのままリアレンジして流用してるのではないか=自分の心情をシンクロさせているのではないか、という説も出ていますね。

その真偽はともかく、まあ私もリアルな物とは思ってないです。
チャプター5(パズル)における、隠された膨大な部屋群といった物は、ナレーターが教えてくれなければ分からない事実で、それこそデペロッパコマンドを用いて調べでもしない限りは誰も気づきません。
プレイヤーが到達できない所に存在する部屋を、執拗なまでに制作しても誰も見てくれないのに、そんなマップを実験とはいえ作るのでしょうか?
もし本当に作ったのだとしたら、それは「プレイされることを想定されてない」ゲーム、つまりは非常にプライベートな作品ということになります。
ks_BeginnersGuide5.jpg

しかし、実際にデペロッパコマンドでこのマップを調べてみると、隠された膨大な部屋群は、ただの書き割りでしかないことが分かります(Skyboxによる見せかけ背景)。
これが本当にプレイすることを想定していない、極めてプライベートなマップであれば、書き割りではなく、実際に作り込むでしょう。
なのでこのマップを見る限り、Coda氏の作品でも、作者本人の過去作という訳でもなく、あくまで本ゲームのために制作されたマップなのだと思います。
(プレイヤーがデペロッパコマンドで調べることを想定したゲーム(シークレット要素に近い)、というなら筋が通る・・・けど無理があるなあ)

まあでも、本ゲームにおいて、Codaという人物が、実在するか、虚構の存在なのかどうかについては、あんまり重要ではないと個人的に感じてます。
ゲーム後半で描かれる、作者とCoda氏との間に生まれる亀裂こそが、大きな意味を持っているのではないか、とにらんでいるのですが。

ゲームの中盤、Coda氏の作品は混沌を極め始め、負の内面を打ち出すような世界観になってきます。これに心配した作者は、彼の作品を知人に公開し、フィードバックを求めました。しかし、よかれと思ってやったことが裏目に出ることとなり、最後の作品「塔」へと帰結していきます。

結局、これは何を意味するのでしょうか。終章における、謎めいたラストも含め、様々な解釈があるため、明確な答えは無いのかもしれません。
しかし、前述したように、結構これは普遍的なテ−マを扱っているように感じました。
それは、作者がどこまで「他人に公開することを想定しているのか」ということです。
ゲームというのはそもそも他人にプレイしてもらってなんぼの物であり、絵画や写真といった物に比べても本来はプライベート色が低いジャンルだったはずです。

ところが、レベルデザインツールの登場で、専門的なプログラミングの知識が無くとも、個人でゲーム制作が可能になりました。その結果、過去にはあり得なかった、極めてプライベート色の強いゲームが大量に出回るようになったのです。
それはつまり、世に出ていない大量のプロトタイプ・ゲームが作り出されてはジャンクにされている、という事実です。
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ここでのプライベート色が強いというゲームは、非ゲーム的な雰囲気ゲーとか、そういうことではありません。それらは少なくとも他人がプレイ出来るよう、公開されているのですから。
そうではなく、Coda氏が望んだように、本当に誰かに見せるために作った物ではない作品群。完全なる趣味の領域であり、非ゲームの体すらなっていない。そんな作品。

絵画や写真は手軽に作れるため、こうした作品になりやすい。実際、写真なら誰かに見せることを想定してない物を誰しも持っているはずです。
恐ろしいことに、レベルデザインツールの登場で、ゲームが写真のような感覚で生み出せるようになってしまった。
その最大のポイントは、設計図無しで作れてしまうこと、ですね。

本来ゲーム制作は、企画書や仕様書をプランナーが作り、それを元にプログラマがプロトタイプを作って、デザイナーが磨き上げて、徐々に完成系へと近づけていく。
しかしレベルデザインツールを用いると、企画書をすっとばして、プランナー自身の手でいきなりフィールドを作り上げて世界を構築出来てしまうので、立ち止まって考え直したり、他人と吟味して意見を交換する必要もないわけです。
なので、Coda氏のような作品が、本当に世に埋もれているのではないのか、と言うことを錯覚してしまうんですよね。

Coda氏が使っていたとされるソースエンジンは、優秀なレベルデザインツールを持っており、MOD文化のいにしえを築いた老舗です。
だから、このエンジンを詳しく知らない方はピンと来ないかもしれませんが、実際にCoda氏のようなゲームを生み出すことは簡単なんです。
私もかつて、このエンジンでMODとか作ってますからね。

でもそれを、他人に見せようと思ってない、見せたくない、というのはどのような心境なのでしょう。
本ゲームでは、Coda氏がどんどん自虐的になっていくけど、実際そういう風にしたのは作者に原因があるのかも。
作者に評価されることによって、Coda氏は無意識にでも、他人に見られることを意識し始め、ああした方が良いかもしれない、これだと不快に思われるかもしれない、という邪念が支配していき、その結果アイデアに煮詰まることに。
自分が本当にすばらしいと思える物を作るためには、他人の顔色を伺うようになった時点で駄目なのだ、ということなのかもしれません。
しかし、それではゲーム制作のセオリーと真逆になってしまうんですよね・・・。

エンターテインメイト性と作家性のせめぎ合いはどの分野でも大きな課題ですが、それを考えさせられます。
ks_BeginnersGuide6.jpg


ゲームというものが、ついに個人の日記に匹敵する所まで来ている、ということを私はこのゲームで感じました。本ゲームが言いたいことはそこじゃないのかもしれないけど。

これが行くところまで行った場合、映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」のように、未公開の傑作ゲームが実は無名の人物によって何年も前に作られ、埋もれていた・・・なんてことが起きる日もやってくるのでしょうか・・・。



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posted by KS(Koumei Satou) at 22:18 | Comment(9) | TrackBack(0) | PCゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これの次回作、無料で出てますよ
Posted by coela at 2016年02月02日 10:24
>coelaさん

情報、どうもです〜
ひょっとしてDr. Langeskovの事でしょうかね?
どちらかというとスタンリーの方の流れを組むゲームっぽいですねー。
どちらにしても、日本語化されないと厳しいゲームですね。
Posted by 佐藤孔盟 at 2016年02月03日 01:11
じつは自分が日本語化を制作したのでその宣伝です(笑)

お時間がある時にでもどうぞ。

http://steamcommunity.com/groups/Dr_Langeskov_jp_mod
Posted by coela at 2016年02月06日 21:15
>coelaさん

おおおマジですか。
ありがとうございます、早速試してみます〜
Posted by 佐藤孔盟 at 2016年02月07日 20:15
私しか気づいてないのかもしれませんが...

後ろ向きにしか歩けないマップで、「しかし未来は見れなかった」の壁をnoclipを使って進んでいくと、
「未来はこちらにもなかった」とういう壁と床に本が落ちているのは何を意味するんですかね...?

あと、The Stanley Parableで自動で動くリフト?のある場所で、柵に囲われている、ドアの横あたりをよく見ると、Codaが作ったゲームの中に登場する、逆三角の丸い3つのドットがあります...
Posted by Grid.0c at 2016年09月24日 17:32
>Grid.0cさん

なるほど、相変わらず人を食ったような仕掛けがたんまり入った作品ですねー。
前作から思わせぶりな物を散りばめてる彼らの事ですから、実はコレと言って深い意味は無いのかもしれませんが・・・。

三角ドットが前作からあったというのは興味深いですね。
これ、今後も深く理由も説明されぬまま、しれっとどこかに置かれていく要素になっていくのかな・・・?

Posted by 佐藤孔盟 at 2016年09月25日 05:13
返信ありがとうございます。
このブログでしか、壁の向こうがSkyboxのハリボテであることを発見していなくて、管理人様の観察力をすごいと思いました。
Davey Wreden氏の作品の小ネタの散りばめ方とこだわり方にはかなり異常性(褒め言葉です)を感じますよね。
彼が過去に制作した自主制作映画(YouTubeにあります)でもシナリオがかなり変わっていて驚きました。(Davey氏が友人を監禁したりしているモキュメンタリー)
The Stanley Parableやこの作品でもかなりゲームシステムをカスタマイズしているように思います(恐らくベースはPortal 2ですが)
今朝フォルダをなんとなく漁ってみたらThe Begginers Guide>bigginersguide>sound>16.Towerのディレクトリに本来ゲームでは使用されないファイル(Demo.wav)がありました。
他にも、4章にて階段を登る場面でもEnterキーを押さなくても階段の上まで登り切れたり(時間はかかりますが)、Daveyが「そちらにはなにもない」と言ってる3つの柱のある場所へ立つと環境音が鳴ることを発見しました。(これはsound>4.Stairsで聞くことができます。)
ただのゲームと思っていても真実味を感じてしまうゲームにとてつもなく惹かれてしまっている自分です...
Posted by Grid.0c at 2016年11月21日 04:19
>Grid.0cさん

この作者ならやりかねないというか、こういう気付く人は気付く、というお遊びというか隠し要素というか、そういうのを入れたくなる気持ちは凄く分かる気がします。

様々な意味深な物を用意することによって、皆こぞってあーでもないこーでもないと考察するので、その過程は外から眺めるととても面白いと思いますから。
それにより作り手が予想だにしてなかった結論や予想が生まれてくる事があり、それは多分こうした謎めいた物を作る側の醍醐味だと思われます。
多分、作者はこの作品を通して様々な議論が交わされていく事を考慮しつつ作っているのでしょうね。

Posted by 佐藤孔盟 at 2016年11月22日 02:47
何度も返信ありがとうございます。
あと一つだけ。
開発者オプションからコンソールを有効にした後、Towerのエピソードにて。
マップを読み込んだ後、コンソールから(Windowsの場合半角全角キーで出せます)から、
『showtriggers_toggle』を打ち込み、出口の近くの道の間にある小さいブロック状のトリガーに触れたあと、出口近くの二つの判定に触れてみてください。
(すみません、画像を載せておきます)
http://imgur.com/a/sxJo7
すると、Daveyが何かをささやきます。
これに関してはコミュニティを探し回ったり、検索したりしましたが、
恐らく気づいているのは私しかいませんでした。
彼が何を考えているかは分かりませんが...
シナリオライターとしての彼が今後も非常に楽しみです。
何度も長文失礼しました。
Posted by Grid.0c at 2017年01月15日 14:06
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