
80年代はまだ今ほどコンピューターグラフィックスは盛んに使われていなく、ようやく注目を浴びだした時代です。そんな中、劇中の殆どのシーンをCGで制作した、という映画が鳴り物入りで登場しました。それが「トロン」です。フルCGってワケではありませんが、実際CGがメインの映画は史上初であり、当時かなり話題になってました。
まだ当時はCGのコストがバカ高く、1カット毎に数百万かかってるなんて話もありました。そんな理由もあってか、殆どがCGとはいえ、いくつかのシーンではアニメーションで代用して経費を削減してたようです。配給元がディズニーだったため、そこの部分をディズニーのスタッフが担当しており、いかにもディズニーっぽい動きのキャラクターが出てきたりします。
「トロン」は、コンピュータの内部を視覚的に見せてみせた映画です。中で走っているプログラムが人物に置き換えられて擬人化されてて、一つの社会のように描かれています。

映画では、巨大企業エンコム社の監視プログラムであるMCPが、世界中のコンピュータを一つに統合し全てを支配しようと企み、他のプログラムを次々に吸収して巨大化し、もはや制作者の意見すら無視して勝手に暴走。MCPは中のルールを改造し、MCPに抵抗するプログラムをゲームに引きずり出し、無理矢理対戦させて負けた物は抹消していました(つまりゲームに負けると消去されるというルール)。結果人間が気軽にプレイしているゲームが、コンピュータの中では生死をかけた死のゲームになっていたのです。
そんな中、フリンという若者が自分のゲームプログラムが盗用されたという証拠を突き止めるためにMCPに進入を試みるのですが、MCPが最新技術の転送実験装置を使ってフリンの体を丸ごとデータ転送し、コンピュータに取り込んでしまうのです。かくしてコンピュータ内部に入ってしまったユーザーは元に戻れるのか? MCPの陰謀を阻止できるのか?

もうかれこれ古い映画になってしまったものの、ビジュアル的なインパクトは未だ衰えていません。なぜなら完全にワンアンドオンリーなデザインであり、当時のCGが単純な造形しか描写しか出来なかったことを逆手に取った非常にシンプルなデザインと配色は、無駄をそぎ落とした実に洗練された物だからです。
私はまだこの時小学生だったので、コンピュータの専門用語が連発するストーリーは全く理解出来ませんでしたが、そのビジュアルだけで興奮して大ファンになったのを覚えてます。しかし中のプログラムが擬人化されて話をしているのは何ともシュールでした。「お前ここに来る前何の仕事してたの?」「保険金の計理やってた。ユーザーの将来に役立ってたんだ」とか。じ、事務ソフトウェアって、そんな気持ちで走ってんだ・・(笑)
MCPはいわば独裁統治を敷く独裁者として描かれ、コンピュータ内部はMCPの許可無くては何も出来ないような状況に陥ってました。MCPは脱ユーザー(人間の管理から脱却すること)を主張し、逆らう者は次々抹消していったのです。これはビジュアル的に赤いカラーで示され、支配下に置かれたプログラムは全て赤を基調に描かれています。
対するユーザー支持者側のプログラム達は青いカラーで示され、捕まると無理矢理死のゲームを強要されていたのです。
元々MCPはフリンの同僚デリンジャーが、他人のプログラムを盗むために作ったハッキング・プログラムで、取り込んではその情報を自分の物として肥大化。最終的にはデリンジャー勤めるエンコム社の監視プログラムにまでなったのですが、自我を持ちユーザーに反旗をひるがえしたワケです。
しかし肥大化したMCPの姿は不気味でしたな。ちょっと笑っちゃう形状してるとも言えるんだけど(笑)。

そこでもう一人の主人公、アランという青年がMCPに取って代わる警備プログラム「トロン」を開発します。元々外部の侵入プログラムを駆逐する名目で作られたため攻撃力が強く、MCPの理不尽なゲームに勝ち続けていました。
このトロンがユーザーであるフリンと共に行動しMCPに対抗していく物語となっています。
MCPの支配下のもとで働いているプログラムはいってみればセキュリティソフトですよね。当時はインターネットなんてものは一般化してなかったのでウイルスの驚異はまだなく、劇中でウイルス駆除の描写はないんですが、ハッキングや不正アクセスに対するガードは描かれ、それは例えば「警戒ゲート」なんていう警備プログラムとして象徴的に登場しています。個人的にこの警戒ゲート好きなんですよねー。凄い格好いいと思いませんか(笑)。

プログラミングしている人なら誰もが知ってる、バグという現象も、トロンではまんま虫として登場させてしまうあたりはいかにも、という感じ。ちなみにこれはCGではなくアニメーションで描かれています。出来の悪いプログラムには虫がたかるというワケですか・・・。なんか嫌だなあ・・・。

あとビットまで表現。この幾何学の塊はYESとNOしか言えません。つまり1と0で1ビット。コンピュータに詳しくなければこのビットは単純にペット的なキャラにしか見えないけども、実はかなり忠実にコンピュータの世界を視覚化しているワケで、こういう所はとことんこだわって作られている事が分かります。

それと、プログラムが強制的にやらされるゲーム、これが多分一番この映画での見せ場であり、有名なシーンですね。ライトサイクルによるゲームのシーンは映画を見たことが無い人でもビジュアルくらいは知ってる方も多いかも知れません。
シド・ミードによるこのバイクのデザインは本当に良くできてると思います。こんな単純な線だけでこうも格好良く出来てしまうのかと、当時関心しまくってましたなあ。
丁度この次期はゲームセンターでのゲームが一番輝いていた時なので、みんなこういうゲームに関心があった頃であり、そういうムーブメントも象徴してますよね。

今となっては個人で作ったCGよりクオリティが低いと言わざるをえませんが、CGのクオリティとデザインセンスは別ですからね。それにその後幾度となく作られていくことになるゲームやコンピュータ世界のヴァーチャル・ワールドを描いた作品の元祖ですし、その後の作品で描かれた要素の殆どを既にやってしまってます。それにしてはあまり話題になる事が無く、先駆者としてもっと評価されても良いハズです。質の悪いDVDしか未だ出てないし、吹き替え版すらないんですよ。(UMD版にはあるって話ですが)
丁度続編が公開されるんで、これを機会に再度注目を浴びれば良いな、とは思ってるんですが、まあ続編の出来が未だ分からないので何とも言えませんね。私自身は期待は半々ってとこで、まあ前作同様フリンが登場したり、警戒ゲートも出てくるらしいのでその辺は良いなあって思ってますけど。
んで当然、当時はハマったのでグッズとかも買いましたわー。LSIゲームや、劇中登場するサイトサイクルのおもちゃとか。昔のオモチャなんて殆ど捨てるかダメになるかなんだけど、トロンだけは大切に保管してて、今でもしっかり動きます。LSIゲームとか割と良くできてるんだよね。

結局、私のシンプル&幾何学に対する趣味ってここから来てるんだろーな、というのを再確認した次第。多分ここが出発点でしたね。
んで、2003年に発売されてたゲームTRON2.0をプレイ中なんですが、これはまたクリア後改めて感想書こうと思ってるのでお楽しみに。
Apple][とか出て来るし、ライトサイクルかっこいいし、テーブルに浮かび上がるキーボードが何しろうらやましかったですねー。
ライトサイクルのおもちゃ……嗚呼、欲しい!
乙です。
そう言えば私もレンタルLD(笑)で初めて借りたのがこの映画でした・・。当時レンタル自体珍しかった時代の話、懐かすい・・。
デリンジャーのヴァーチャルキーボードデスクは確かに格好良かったですねー。ああいう商品は多分未だに実現してないような。もう既に技術的に全然出来るハズですけど、コストかかっちゃうし現実的じゃないのかも。
ライトサイクルはトミーから出てた奴で、勢いよく滑走するオモチャでした。一度復刻されてますが今は絶版ですね・・。コレ、続編に合わせてまた再販されないかなあって思ってるんですけどねー。ていうか続編のライトサイクルもそこそこ格好いいのでそっちも地味に気になってます。